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こぼれ桜 サンプル

 その日は朝からあいにくの天気で、澱んだ雲が空を覆い隠し、しとしと雨が降っていた。天然パーマの銀時は、その雨の湿気により日頃より髪の毛がくりくりと跳ね上がり、そのせいで機嫌がすこぶる悪い。その機嫌が悪い銀時が座るソファーの向かい側には、有り難い本日の依頼主がちらちらと、こちらの様子を伺いながら鎮座していた。
 もちろん、銀時のとなりには新八も神楽いる。が、雨の日の銀時の機嫌の悪さを身にしみてわかっているだけに、あまりツッコミを炸裂させる気はなかった。普段ならすでに銀時の機嫌の悪さをツッコんでお客様に非礼を詫びている所である。しかし、今日のような日にそんな事をツッコんでしまったら新八に明日はない。
 だから気づけなかったのだ。今日の銀時がなんだかいつもと違う事に。新八も、銀時になついている神楽でさえも。
「で、その依頼というのがこれですか?」
 しんと静まり返った万事屋に銀時の不機嫌そうな声だけが響く。ため息をつきそうなほど、だるそうな顔をしているのは雨のせいなのだろう。依頼主の女はそんな銀時をちらちらと視界にいれつつ、おずおずと言葉を返した。
「はい…主人が帰ってこなくて…。昔の仲間と飲みに行ってくるって告げて出たっきり、三日も戻らないんです。いつもなら遅くなる時は電話くれるのに…だから、何かあったんじゃないかって…」
 涙ぐみながら話す依頼主の女は、袖で口元を覆い、持っていたハンカチで目元を拭った。
「それだけでウチに?」
 それなら警察に伝えて捜索願を出してもらうのが筋であろう。と銀時は依頼主の女を睨むように見た。しかし、それは言葉に出さず、女の理由を聞く姿勢で一応待ってみる。
「実は…」
 女はハンカチをしまうと、言いにくそうに返事を待っている銀時の方へ顔を向けた。銀時はその雰囲気からなんとなく女が言いにくそうにしている理由の検討がつき、思わず眉を寄せる。
「夫は…攘夷志士なのです」
 だから警察に頼ることができず万事屋にきたと女はさらに続けた。銀時は自分の勘があたっていたことに加え、やはり厄介な人物だったか、と寄せていた眉をさらに寄せると、ボリボリと銀髪をかきむしった。そんな中、女はさらに気になることをつぶやく。
「この間から攘夷志士のあいだで妙な噂が広まっておりまして…夫も、もしやそれに巻き込まれてしまったのではないか、と不安で不安で…」
 そこまで話し女は悲しげにうつむいて、肩を震わせた。泣いているのだろう。時折しゃくりあげるような声が漏れていた。
「その噂っていうのを、今聞いても大丈夫ですか?」
 新八がいたわるように言葉を選び、慎重に女から、噂とやらを引き出そうとする。女は顔を上げると、潤む瞳を僅かに伏せ、静かに語った。
「白夜叉…という人物をご存知ですか?」
 ぴくり、と僅かに銀時のこめかみが動いた。新八と神楽はそれに気づかず女の問に首を横に振る。なぜ、今更その名が出てくるのか、銀時は居心地の悪さを感じつつ、女の話の続きに耳を傾けた。
「攘夷戦争で活躍した伝説の4人のうちの1人で、鬼のような強さで敵味方からも恐れられ崇められた存在がいたそうなのです。私は夫から聞いた話ですので、見たわけではございません。その為詳しくは存じないのですが…その白夜叉を必要としている攘夷志士のグループがあり、白夜叉を探していると。その白夜叉は、このかぶき町にいるとのもっぱらの噂なのでございます。夫も白夜叉を探しておりました。白夜叉を見つけられれば、この国を変えられるかも知れないと志士の間で言われておりまして…聞けば、それをよく思わない攘夷志士もいるのだとか…」
「それはまたすごい信仰心アルな」
 神楽はふんと小さく鼻で笑うと、馬鹿にしたように女を見つめた。夜兎族からしてみれば一人の人間にすがりつく、地球人の暑すぎる信仰はかえって気味が悪く見えるのかもしれない。
「これが夫の写真です」
 女が懐から取り出した夫の写真を銀時は静かに受け取る。まだ受けるとも何も言ってはいないが、白夜叉がここまで話題に上がってくることが珍しく、また信仰されているとなれば受けざるを得ない状況と判断するしかなかった。それに何も知らない子供達の手前、ここで断ったら後々の説明が面倒である。
「わかりました、受けましょう」
 女の夫の写真を懐へしまうと、銀時は言葉を発すると同時に立ち上がった。
本作品へ続く...

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まぁ、中身が小説なので買う人少ないでしょうけど…