螺旋街道


約束08

「武器…?」
銀時は少年の話に首をかしげた。自分は攘夷戦争に出ていただが、当時そんな武器を手に入れたという噂などは一度も耳にしたことがない。黙っていたとしてもあの時代、そのようなことが噂に立たない方が難しいのだ。
「あのね、それでその武器…氷花…っていうの」
少年が言うには、その氷花。どうやら天人の技術によって作られた伝染病みたいなものらしい。体のどこかに花の入れ墨が浮かび上がり、そこだけが氷のように冷え切るんだそうだ。そして体は異物を追い出そうと高熱を出す。冷え切った部位は徐々に範囲を広げていき、やがて体を凍らせてしまう病気だという。
「僕が聞いた話…入れ墨が出る前…体のどこかに傷ができるんだって…お父さん言ってた…」
なるほどな、と銀時は首をふると、少年の前に膝をつき顔を覗き込んだ。
「それで、その武器もってるやつの名前とかわかるか?」
「…それが…その武器もってるの…松下村塾の…でも…噂だし…なくなったんでしょ…?」
村塾の名前を聞いた途端、ぴくりと眉をよせた銀時は、混乱する頭を振って少年の頭を撫でた。少年を労わるように優しく。
そして、少年は握った手のひらから少しのお金を銀時に差し出すと、受けてくれる?と首をかしげた。銀時はそのまま少年の手のひらを包むように、握ると、にかっと笑って見せる。
「いいぜ、その依頼受けてやるよ。ただ…親を救えるかどうかはわかんねぇけど、できるとこまでやってやる」
腰にさした木刀を強く握りしめ、銀時は嬉しそうに微笑む少年を抱え重々しいドアを開けると、すでに真っ暗な道路を万事屋目指して歩き出した。



「銀時ィ、なんだよそのガキ」
「依頼人〜」
「あ?」
「ほれ、食え。そんなぶっ倒れそうな顔色してると定春に食われるぞー」
少年…直を万事屋に連れて行って、高杉の機嫌は急降下したようだ。銀時はそんな高杉には構わず帰ってくるなり炊いていたご飯を手のひらにとり、おにぎりをこさえると、直へと差し出した。
直は、親が病に倒れてからろくなご飯を食べていなかったからだ。かきこむようにおにぎりに食らいつく直をみて、銀時は湯呑に注いだお茶を机の上へおく。もちろん高杉の分も忘れずにだ。
「…銀時ィ、あのガキが依頼人って、どういうことだ?あァ?」
「あのね、晋助。依頼人に年齢制限はないの。だからなにもおかしくねーって」
おにぎりに夢中になっている直を眺め、銀時はソファーから立ち上がると、高杉の質問をのらりくらりと交わし、寝室のドアを開けると、手招きをした。新八や神楽は既に帰ってしまっていていない。
銀時はそれでも誰かに聞かれることを警戒して、わざわざ高杉を寝室へと呼びつけた。
「…何かあったみてェだな」
「それがさ…」
銀時は、年中引きっぱなしの布団の上へと腰掛けると、盛大なため息をついた。壁に寄りかかって聞く体制をとった高杉へ、少年から聞いた話を洗いざらいぶちまける。正直、銀時の口からあの人が犯人かもしれないなんて、言いたくはなかったが仕方がない。直はその噂を聞いた本人で、その本人からもっている人物の名前を、はっきりと道中で聞いたのだ。
「冗談よせよ…」
「冗談じゃねーよ…」
どんっと派手な音がして、高杉が力任せに壁をなぐったのが見えた。銀時も同じ気持ちなのでなんにも言わない。心の中では死んだはずだと何かが悲鳴をあげていて、それが出てこようとするのを必死に押さえ込んでいた。

「先生が生きてるって言うのかよ」