螺旋街道


約束06

―ピピピピピピピピピッ!!!!
銀時の枕元でけたたましくアラームが鳴り響いた。 時刻は8時。 すでに一般の社会人は外へと出かけている時間である。
だが万事屋として江戸で自ら商売をしている銀時の朝は遅い。 銀時は低血圧でぼーっとする頭を振って、時計を殴ることによってアラームを止めた。
ガシャンと悲痛な音を響かせた時計は、すでに壊れていて、あちこちからバネが飛び出している。
「あと10ぷん…」
そうつぶやいて、柔らかく暖かな布団の中へさらに潜り込んだ瞬間。
スパーン!と襖が勢いよく開いた。
「銀ちゃん!いつまで寝てるアルかっ!」
その音と声にびっくりした銀時は思わず枕から数センチ頭を上げた。
「んだ神楽…もう少し寝かせろや…」
相手を神楽だと認識するや否、すぐさま眠りにつこうとする家主に神楽は飛び付くことで、それを妨害する。 ぐぇとカエルが潰れるかのような声をあげた銀時は、朝っぱらから腹へ小柄とは言え軽いとは言い難い体重を受け止め悲鳴を上げた。 そして、観念したかのように彼女の肩をたたいて、むくりと起き上がる。
「はよ…高杉は?」
「朝から小難しい顔をしてどっか行ったアル」
キョロキョロと見渡し、高杉がいないことを確認した銀時はすでに覚醒して時間が経っている神楽へと質問を投げた。
「調べることがあるそうですよ」
ガタガタと少しはずれた麩をいつの間にか直しにやってきていた新八が、呆れたようにため息をつく。 襖を破壊した少女の方は我関せずといった態度で、朝食を食べにすでにソファーへと移動していた。
「調べることねぇ…」
銀時は少し考える風に目を閉じると、ふと外から見られているような気配に気づきそちらへ視線を投げた。 が、特に誰かがいるわけではなかったため、首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「…いや」
新八の声に、家の中へ視線を戻す。 そして再び突き刺さるような視線の気配を感じながら銀時は朝食を取るために、立ち上がった。




食事を終え、いつもの如く屋根の修理だの、人探しだのの依頼を電話で受けた銀時は、本日2件目となる依頼人のもとへ向かっていた。
「一日で二件も依頼があるなんて珍しいこともあるもんアル」
定春に乗っかった神楽は、さんさんと降り注ぐ太陽を軽く睨むと、傘の中へ身を隠した。
「たまには新鮮でいいじゃねーか」
2件目の依頼主の家への地図とにらめっこして眉を険しくする銀時は、口調だけは軽く、へらっとした様子で答えた。 が、明らかに地図が指し示す場所は、使われていない工場で、どうにも臭い。 依頼主が知られたくない秘密でも持っているのか、それともおびき寄せるための罠なのか。
気味が悪いことこの上なかった。
「新八、神楽、銀さんちょっと厠行ってくるわー、お前らもう遅いし今日は帰れ」
日がまだ落ち切ってはいないが、時刻は既に五時を回っていた。 普通なら手伝ってもらう時間ではあるが、どうにもこの依頼が気に入らない。 子供達を危険な目にあわせたくはないと、銀時は頭を掻き毟ると、ため息をついて更なる言い訳を考えた。
その瞬間、ふと不思議そうに自分達を見つめる子供の視線に気づき、思わず眉を寄せる。 この子供一体いつからここにいたのか。
「銀ちゃん、まだ日落ちてないアル。それなのに帰れってどーゆことネ!」
「その地図に何かあるんですか?」
銀時がいつの間にか側にいた子供へと視線を固定しつつ、抗議するとわかっていた神楽と新八へ、短く理由を投げて渡す。
「この依頼長引きそーなんだわ。お前ら未成年だし、夜遅くまで連れてたら俺がしょっぴかれちゃうでしょ?」
分かってよね?とは言わず、子供に視線を固定したまま神楽の頭を撫でる。 それだけで神楽と新八は何かあると悟り、渋々ながらも来た道を引き返すように脚を踏み出した。
「銀さん、気をつけてくださいね?」
「銀ちゃんに何かあったら、あの片目が暴れるアルよ?」
「それは困る…」
独占欲の強い恋人を思い、今だにぐずぐずと銀時を見つめる神楽の言葉に、冷や汗をかいた。 やりかねない、あいつならやる。 そして、神楽と新八の背中が見えなくなるまで確認した後、銀時は気合いをいれて地図に示されている、工事へと向かった。
「ごめんくださーい、万事屋ですけどー!」
工事へとたどり着いた銀時は、幽霊のように後からついてくる子供に冷や汗を流しつつ、挨拶の言葉を叫んだ。
正直、ついてくる子供から生気が感じられなくて、生きていないものに弱い銀時は、ゴキブリが嫌いな少女なみに叫びたくて仕方がなかったが、それを挨拶することで誤魔化す。 若干、叫んだように聞こえたのは気づかないで欲しいところだ。
「万事屋ですけどー!!」
返事が返ってこず、銀時はさらに声を張り上げた。 おかしい、とどこかで銀時の直感が警告していたが、これも依頼。 怪しいなら怪しいでその全貌を解き明かし、解決するなり逃げるなりすればいい。 すべてを知る前に逃げ出すことは銀時のプライドが許さなかった。
「すんませーん!だれもいねーんですかー!」
再び銀時がしびれを切らして叫んだ瞬間。
「…るよ…」
小さなか細い声が聞こえてきて全身の血が下がっていく感覚に、ふらりと足元がふらついた。 聞こえてきた声の発生源が銀時の背後からだったからである。 背後には、あの生気の感じられない少年がいるのだ。
おそるおそる振り返ってみて、銀時は目を見開いた。

続きますよ〜
しばらく小説書いていなかったせいで、だいぶ慎重に書いてます。