螺旋街道


regret

土銀 切な目一応

―俺は、心の奥底で理解していたつもりだった。

自分と、アイツでは“愛”なんて成り立たないことを。

それなのに、いつの間にかこんなに夢中になっていた。 アイツを……銀時をここまで好きになるなんて。 結局、分かっていたつもりで分かっていなかったらしい。 もう、アイツしか目に入らない。
「坂田銀時と、別れろ。さもなくば、アイツを殺す」
こんな、脅迫文が土方の元へ届いていた。 差出人は不明。 文字の癖から、見抜こうにも、肝心の文字は、新聞の切り抜きを使った物だった。
『アイツを殺す』
その言葉が頭の中を回る。 自分はいくら傷ついても構わないが、銀時が傷つくのは、見ていられない程嫌だった。 くわえた煙草は、既にほとんど残ってはいない。
―馬鹿馬鹿しい。 そう思い直して、紙を丸めようとした瞬間に、山崎が慌てて入ってきた。
「副長!!」
ノックぐらいしろ、と怒るつもりで振り向いた土方の目に飛び込んで来たのは、血だらけの銀時。 山崎に肩で支えられた銀時は、苦しそうに肩で息をしていた。
「銀時!」
立ち上がり、優しく抱き締める。
「誰にやられた?!」
山崎に、包帯を持ってくるように頼み、銀時をゆっくり寝かせて強い口調でたずねた土方。 銀時は、震える瞼を持ち上げて口を動かした。
「わか……らない……けど、たぶん……攘夷志士……っ」
銀時の着流しを脱がせ、傷口の深さを確かめる。 土方は、チラリと机に無造作に置いた脅迫文を見た。
「そうか……」
「副長!包帯を持ってきましたっ」
襖があいて、山崎が腕一杯の包帯を差し出す。 土方は、それを受けとると山崎を追い払った。
「取り敢えず、止血するから、じっとしてろ」
「あぁ……いっ」
銀時の身体につけられた傷は、全て致命傷にはならないが痕が残りそうな程深かった。 それを一つ一つ、丁寧に止血して消毒し、包帯をまく。
土方の手が動くたんびに、しかめられる眉間。 土方は、傷を見て。 脅迫文をふたたび見た。
「銀時」
包帯を巻き終えて、布団に寝かせた銀時を呼ぶ。 その声はどこか寂しそうだった。
「土方……?」
銀時も異変に気づいたようだ。 不思議そうに返事をする。 土方は、息を深く吸い込むと一気に言葉を吐き出した。
「別れよう」
「え?」
耳を疑った。
「え?ひじか……」
「俺、お前をおもちゃにするの飽きた」
―もしも、ここでコイツとの関係が終わっても。 コイツが生きてさえ居てくれればそれでいい。
「いや……嫌だよ……」
突然の土方の言葉に、銀時は涙を流した。
「嫌だ……っ」
痛む身体にムチ打って、立とうとした土方をひっ捕まえる。
「なんで?どうして?」
土方は、歯を食いしばった。
「……っ、だから!俺はお前を、ただ、快楽を得るための道具としか思っちゃいねーんだよっ」
「俺は……!!それでもいいっ、土方……だから」
「駄目だ」
ふりきられた。 土方に銀時は手を伸ばす。
「土方!!」
一瞬、土方の手がこちらに伸びてきた。 しかし、途中で何かに気づいたように、その手を翻す。 銀時の手は、土方に弾かれるように、空を舞った。
「ひじ……かた……」
「……っ」
土方は、そのまま銀時を置いて部屋を出た。 襖を閉めて数歩、歩いたところで土方は脱力し、その場に座り込む。
「銀時……」
自分より大切に思っている人を傷つけてしまった。 ため息をつく。 一方、取り残された銀時は胸を押さえて蹲っていた。
「ひ、土方ぁ……」
胸が引き裂かれたみたいに痛む。 何か、鋭い刃物でえぐられたように。 そして泣いて、嫌だと叫ぶ事しか出来なかった自分に腹がたつ。
こんなにも、自分の世界は土方中心に回っているといっても過度ではないほどに土方の事が、好きだった。 お互いの心がすれ違う。
―この瞬間に、俺の時間を刻んでいた時計の針が止まったんだ。 土方に、別れようと言われた瞬間から。 俺はただの人形みたいに、ただ食べて寝る。 最低限の動きしか出来なくなった。



「銀ちゃん、最近様子がおかしいアル」
ぼーっと朝御飯を食べる銀時をみて、神楽がボソリと新八に囁いた。
「土方さんと何かあったのかな?」
最近、めっきり顔を出さなくなった土方。 新八は、ふぅっとため息をついた。
「新八、マヨラーの所に行って確かめるアル!」
「僕が?」
「私、こんなに元気のない銀ちゃん嫌アルヨ」
ご飯を食べ終えた銀時は、すぐに自室へこもる。 新八と神楽はその姿をみて、深くうなずき合った。


屯所にやって来た二人は、すぐさま土方に会えた。 神楽は、前置きもなしに、土方の襟首をつかんで揺さぶった。
「銀ちゃんに何したアルか?!」
土方はただ、黙ったまま。 神楽は、さらに揺さぶる。
「銀ちゃん、もう死にそうな顔してるアル!!あんな銀ちゃん初めてみたヨっ、お前が万事屋に来なくなってからアル!!」
神楽はもう、涙目だった。 土方は、相変わらず黙りしている。 その手には、あの脅迫文が握られていた。
それを見た、新八が不振に思いたずねる。
「土方さん、それ手紙……ですか?」
「よく見えてんな……」
土方は、苦笑いを見せた。 その脅迫文を二人に見せる。 中を読んだ二人は、顔面蒼白になった。
「コレが理由だ、アイツを傷つけたくない」
神楽は、その脅迫文を掴むと、走り出した。
「オイッ」
土方が必死に止める。 しかし、神楽はそれを避けて叫んだ。
「銀ちゃんはそんなに弱くないアル!!お前、銀ちゃんを守れる自信がないだけヨ!」
何か痛いところを突かれたように何も言い返せない。 神楽は器用に塀を飛び越えると、銀時の元へ走っていった。
「土方さん……」
そっと呼び掛けた新八の方へ、振り向く土方。 新八は、頬をかきながら照れくさそうに笑った。
「銀さん、土方さんに会うとき本当に嬉しそうな顔をするんです。僕達でさえ見たことのないような」
銀時がいかに土方を愛していたか、分かるような新八の発言を聞き、土方はなにかを決心した。
「土方!!」
その時丁度、銀時が神楽に連れられやってきた。 先程とはまるでうって変わったように、薔薇色の頬をしている。 土方は、そんな銀時に走りより、おもいっきり抱き締めた。
「銀時……俺が悪かった」
「土方……」
抱き締められた腕の中で上を向く銀時。 ふわりと優しく笑った。 その様子を見ていた、神楽と新八は、こっそりと屯所をあとにする。
銀時は、呟いた。
「俺、強いよ……」
「あぁ……」
「だから、多少の事じゃ死なない」
土方は、すぅっと銀時の顔を手で包み込んだ。
「大丈夫だ、俺がお前を守るから」
優しく口づけをする。 ふたたび、銀時の中の時計が時を刻み始めた。

土方が銀ちゃん傷つけたくなくて、別れを切り出す話でした
切な目とかいいつつ最後はきっちりハッピーエンド