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身体検査

「クラサメ!」
0組で、クイーンとクラサメが戦略についての意見交換を行い、ほかの生徒も各々自由時間を過ごしていた時だった。 突如0組の教室のドアがあいて、綺麗な髪を高く結い上げて顔に似合わぬごつい装備をした女性が0組の指揮隊長の名を呼びながら入ってきたのだ。
クラサメはクイーンから視線を外し、緩慢な動作で女性の顔を確認すると幾分か、ほっとしたように目を細める。
「エミナか…どうした?」
突然の見知らぬ来訪客へ0組の面々が、面食らったようにあちこちで囁き合いを始める。 この年頃の子供が見知らぬ女性と、己の指揮隊長を見て思うことは一つだろう。
だが、クラサメは敢えてそれを拒否することもなく、受け流すことにした。 エミナと呼ばれた女性は、クラサメのすぐ近くまで歩み寄ると、クラサメの腕を掴む。
「あなたのとこの生徒が、カヅサに…」
「またか…」
エミナの言葉に、クラサメは頭を抱えた。 同期の研究オタクであるカヅサは、特殊な人間などの身体検査などをすぐにしたがる癖があり、0組の誰かがクリスタリウムへ赴くと必ず拉致って行ってしまう。 今日で5回目だ。
いい加減迎えに行くこちらの身にもなって欲しいものである。
「すまない、手間をとらせたな」
教えてくれたエミナに遠まわしにお礼を言えば、彼女はふんわりと微笑むと、クラサメの肩を数回叩いた。 クラサメはそれに瞳で何かを答えると、0組の面々に視線を走らせいないものが誰か確認をする。
全部で14名いる0組には現在9名ほどしかおらず、トレイとデュース、そしてエース、ナイン、エイトの5名の姿が見えなかった。 クラサメはため息をつくと、6回目の拉致事件に巻き込まれた部下を引取りに、カヅサの研究室へと趣いたのだった。


がらっと隠し扉のドアが開いて、独特の雰囲気をまとったクラサメが入ってきた。 カヅサは振り向きもせず、その独特の雰囲気で誰が来たのかを悟と明るい口調で歓迎の言葉をかける。 手に、カルテを持ちながら。
「生徒を引き取りに来た」
「ちょっとまってね…まだ薬がきれてないんだよ」
どうやら今回の標的はデュースだったようだ。 彼女は簡素な研究台の上に寝かされている。
特に解剖等はしていないようで、クラサメは生徒の安否を確認すると、安心したようにため息をついた。 そしてゴソゴソと何かを探すカヅサの背中に、クラサメは思わず軽い蹴りを入れる。
特に理由はなく、ただ、そこに背中があったからという理由なのだがクラサメはそれに取ってつけたように小言をカヅサへと言い始めた。
「あれほど生徒には手を出すなと言っているのに聞かないな」
「だって蘇生できちゃう上に、最強の0組の子だよー?調べなきゃ研究員の名がすたる…ってごめんごめん、いつも悪いと思ってるんだよ」
唐突に手のひらに魔法をかき集め始めたクラサメを見てカヅサが鼻白む。 降参といわんばかりに手をあげ、ようやっと見つけた解毒剤をデュースに打ち込むと、カヅサは己の机にカルテをおい
た。 「君の時よりは弱い薬だから心配ないって」
未だ目を覚ます気配のない女子生徒を尻目にカヅサはクラサメとの距離を縮め、そして肩に手をおき彼のマスクを手にとった。 そっと、その口元を覆うマスクを外し、久しぶりに見る口元を外気に晒す。 整った顔に痛々しい程の深い、やけどの傷がくっきりと残っていた。
「いつ見ても痛そうだね」
「痛みはない」
「…それでも痛そうだよ」
そばに女子生徒が寝ていることを忘れて、カヅサはクラサメの顔のやけどの傷に指を滑らす。 ぴくりと小さく、クラサメの眉が動いたが彼は抵抗する気は無いようで、おとなしく身を任せていた。
クラサメもまた、久しぶりのカヅサとの甘美な雰囲気に飲まれ、すぐ近くに薬で意識を飛ばしてはいるが、己の部下がいることなど頭から抜け落ちていたのだ。 その証拠に、ゆっくりと近づいてくるカヅサの顔を拒否することなく受け入れる。
そっといつもはマスクで覆われ人の目には晒されることのない唇に、熱いものが触れた。 その刺激に耐え切れず、ぎゅっと目を閉じる。
湿った熱いものは、己の唇を味わうように貪ったあと、口内へと侵入してきた。 深く熱い口づけが交わされる。 互の息を奪うかのように激しいキスにクラサメはふらりと足元をふらつかせた。
その刹那、ごそっと、胸元をまさぐられる感覚と腰をなであげられる感覚に手を伸ばす。 まくり上げられそうになっている衣服を手探りで感じ、二週間ほど前に感じた熱を思い出し流されてしまおうと委ねかけた意識の中で視界の端に朱いマントが写りこむ。
そして―、クラサメは我に返り思わず一歩後ずさった。
「ま、まて…っ」
すぐそばに部下が意識を飛ばしているのを完璧に忘れていた。 クラサメは慌てたようにデュースの意識確認を目視で行い、安堵の息を吐く。 どうやら彼女はまだ眠っているようだった。
「おしい、もう少しでながせそうだったのに」
本当に悔しいのか、持て余した熱を指先で弄るかのように、指が小さく動いている。 クラサメはそんなカヅサを一瞥すると、素早くマスクを装着し、赤く染まってしまった頬を隠してしまった。
「カヅサ。次生徒を拉致ったらお前が責任をもってこの子達を運べ、わかったな」
態とらしく刺のある言葉を選んでカヅサに釘を刺したあと、デュースを抱える。 そのまま出口に向かうクラサメの背中をどこか寂しそうに、熱っぽい視線で眺めていたカヅサは、ふと振り向いたクラサメに思わず冷や汗を流した。
「…カヅサ、続きはまた後で」
はにかむように珍しいお誘いの言葉を投げた後、踵を返し足早に出て行ったクラサメ。 カヅサはしばらく呆然と扉を眺め、そして喜びに拳を強く握った。

同時刻、すでに意識が戻って数十分が経とうとしているデュースは、クラサメに抱えられ0組へと戻っていた。 最初は指揮隊長のマスクをはずしたカヅサの行動に面白さを覚えて、尚且つそのマスクのしたが気になっていた故に、気絶しているふりを決め込んでいたが。
途中からそれは恋人同士のような甘美なものに変わり、デュースは意識があることを少しだけ恨んだ。 あれだけ見せつけられては、なにも口出しすることはできない。 まぁ、もともとデュースはそう言った偏見を持ち合わせていないため、口を出す事も、権利もないのだが。
(まさかクラサメ隊長と、研究員のカヅサさんがお付き合いしてるだなんて…!みんなにどうやって話しましょうか…きっとナインたちは気持ち悪いって言うんだろうけど、私からすればいい夫婦だったわ。)
デュースはこれから話す内容に、個々それぞれの反応を返してくれるであろう、0組の事をおもい、己を抱えるクラサメにバレぬよう小さく笑いをこぼしたのだった。

END

初のカヅクラ!
この二人公式で病気っすよね、結婚しちゃえばいいのに