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螺旋の回転 02

ここは朱雀領ルブルム。
広い大地にポツリ、ポツリと街が点在し、その先の橋の向こうにはオリエンス一美しいと言われている魔導院がそびえ立っていた。 その中では今日も訓練に明け暮れる、子供や大人の姿がある。
クラサメ・スサヤもその一人で今日は珍しく、0組の面々と実践演習を行っていた。
平和になっても癖は抜けない。 皆いつあるのかわからない戦いに備えて、それぞれ力を蓄えている。 それは何度も繰り返してきたオリエンスの大半が戦争で埋め尽くされていたからであり、無意識のうちにその魂に刻まれた記憶を思い出して防衛をおこなっている為だった。
「動きが鈍いぞ!」
飛んできたファイアを交わし、クラサメは間髪いれずに間合いを詰めると弱くブリザドを唱えた。 思わず一歩後ずさったエースは、直後自分が先ほどまで踏んでいた大地が凍りつくのを見て、きりっと気を引き締める。
こちらに向かって伸ばされたクラサメの手を掴み、至近距離でもう一度ファイアを唱え、クラサメの腹にやけどを負わす。負わすつもりだった。が、クラサメもまた至近距離でブリザドを放ち互の魔法を打ち消している。 そして、驚きに動けないでいるエースの足元をさらうと、その場で押し倒した。
「終わりだな」
押し倒した直後、すぐさま体制を整え立ち上がったクラサメはエースに手を差し伸べる。 エースは黙ってそれを掴むと、わざと体重を相手にかけて立ち上がった。
しかしクラサメはふらりとも、体制をふらつかせることなくそれを受け止めふと目を細める。
「エース、さっきのファイアは中々タイミングが良かった」
あまり褒めることをせず、冷酷人間として通っているクラサメだが、その実は違う。 褒めるべき点はきちんと褒めてくれるし、間違っている時は間違えを正してくれる。 それがたとえ誰であろうともだ。
故に変人ぞろいの0組にとっては素晴らしくいい教官なのだ。
「隊長〜、次アタシアタシ!」
遠くの方で、ケイトが魔法銃を振り回し叫んでいる。 それを見たクラサメは手を上げて待ったをかけた。 それと同時に武器を振り回すな、と目で牽制をかける。
エースはその様子を眺め、やはりいい先生だと満足げにうなづくと、簡単にお礼を言って、次の演習の予約を取り付けた。 そして、ケイトたちのいる方へとかけていく。 その直後、クラサメの目の前をカヅサが通りかかった。
「おや、クラサメ君。君何やってるんだい?」
珍しく外に出ていることにクラサメは少なからず驚愕の色を浮かべる。
「お、お前こそ何をやっている?」
今は日がさんさんと降り注ぐ日中だぞ、と言いかけてクラサメは太陽を睨んだ。 それに気づいたのか、カヅサは額の上の方で手を使い小さな日除けを作ると、暑いねぇと一言漏らす。
「クラサメ君さ、暇?」
その言葉にチラリとケイトの方へ視線を飛ばす。 彼女はカヅサの登場により、諦めたのか日陰へと座り込んで、エースと話に花を咲かせていた。
「…暇、とは言い切れんが、時間はある」
「素直じゃないねぇ…」
暇になったのならそういえばいいのに、とカヅサは小さく笑をこぼす。
その瞬間、何故かカヅサの脳裏に古い映像を見ているかのようなノイズが入り始め、そしてクラサメの顔が現れた。 いま見ているクラサメとは雰囲気が違う。 苦しげに眉を寄せる彼から溢れる言葉は、マスクによって阻害されているのか、はっきりと聞き取れない。 しかし、その目は赤く、朱雀の色に光り輝いていた。
「…ヅサ…カヅサ!」
「うわぁ!」
急に脳の映像がクリアになったと思えば、どアップで映るクラサメの顔。 それに驚いたカヅサは柄にもなく間抜けな声を上げた。
「大丈夫か?」
あれは一体なんだったのか、と考える暇もなく大丈夫だと返事を返せば、唯一晒されている目が優しそうに細められた。 先ほどみたクラサメの表情とはだいぶ違う。 しかし、嘗てあのような表情をクラサメは自分にしただろうか?
カヅサは、疑問を抱えつつ暇になったというクラサメを連れて自分の研究室へと向かった。