螺旋街道


knight and lie07

「…向こうから連絡しておいて無視かよ…」
サイファーは一向に呼び出し音の止まない携帯をチラ見し、舌打ちをした。 番号は間違っていないし、一回目で損ねた電話のあとすぐかけたからつながらないなんてことはほとんどないはずなのに。
「出ねぇ…」
ガーデンからさほど離れていない小さな海に面した崖の上で、一人釣りに専念していたサイファーは、音を立てて立ち上がった。 魚が逃げようが、魔物に見つかろうが関係ない。
相手が出ない、これが異様にムカつく…というよりも何やら嫌な予感がするのである。 ランクが高いとは言え、彼はこのガーデンの指揮官だ。 そう安安とやられないと分かっていても、どこか抜けている彼の日頃を思い出し、いや待てよ、もしかすると…と悪い方向へと思考が働く。
サイファーは近くに駐輪していたガーデン専用の自動車に乗り込むと、エンジンをかけたと同時にアクセルをふかした。
「…ったくよ…」
不安を振り切るかのように小さな悪態をついて。



同時刻。
煙の上がっていたティンバーは落ち着きを取り戻し、今やほとんど何事もなかったかのように、人々は急かせかと復旧作業にあたっていた。 あちこちがブリザラの魔法が溶けた影響で、水浸しとなっているのだ。
「君たちは一体何をやっていたのかね!?」
そんな中怒鳴るのは、使い物にならなくなった車を背に、いままさにティンバー大統領のいる大統領邸にはいろうとしていたスコール立ちを呼び止めた、ティンバーお抱えの相談役・カレシラーであった。
「何を…とおっしゃられますと?」
怒鳴られることをした覚えのないスコールは特に笑を浮かべることもなく、いまだ戦闘モードで相手に問う。 相談役はその態度も気にさわたのか、大統領邸を指さし、あろうことか自身の車を蹴っ飛ばした。
「とぼけるな!お前たちが来るのが遅かったせいで、大統領が行方知れずになったのだ!ガーデンに依頼したのはそれを阻止するという名目だったはずだ!」
まったく見に覚えのないことにスコールは首をかしげる。 確か、自分たちの任務は某富国のマフィアの暗殺であり、護衛などではなかったはず。
「キスティス、依頼内容覚えているか?」
「ええ、もちろん」
自分の記憶がおかしいのかと、助けを求めキスティスの方へ顔を向ける。
「某富国のマフィアと…って内容だったはずよ」
キスティスのきっぱりとした物言いに、やはり記憶違いではないと思い直したスコールは、相談役の方へ体を向けた。 人違いでもしているのだろうか。
相談役はなおもぶちぶちと文句を連ねている。 一通りいいおえ、収まったらしい相談役は足踏みをしながら大統領邸を指差した。
「…とにかく!君たちにはきっちりと説明をさせてもらう、だから早く入れっ」
半ば押し込められるかのように、スコールたちは大統領邸へと足を向ける。 大きな扉が開き、スコール立ちを招き入れてから完全に閉まり…と、そこでスコールたちは急遽足を止めるハメとなった。
「な、なんでここにエスタ兵が…っ」
銃を構え、スコール立ちを囲んだエスタ兵。 苦虫を噛み潰したかのような顔でスコールは小さく舌打ちをこぼした。
ガンブレードは手元にあるが、抜くまでに時間がかかる。 それまでに相手が発砲してくる確率はかなり高い。 どう転んでも蜂の巣になるか、降参するかしかないな、とスコールは気づくと、退路はないかと視線を巡らせた。
「退路はない。油断したな、スコール」
突如ホール内に響いた声。 聞き覚えのあるその声に、スコールは小さく体を震わせる。
どこだ、と視線を巡らせた先には、脱力するほどに見飽きた見知った顔がいた。