螺旋街道


knight and lie03

「では…そのように計画を進めたので良いですね?ガルバディア大統領閣下」
「そうしてくれ」
背の高い好青年の言葉にうまく乗せられたように、幼い大統領は頷いた。 父親が早くに他界し、後継は男子しか認められないここ、ガルバディアでは、年齢が幼かろうが、なんだろうがその責任を彼、アウラス・ガルバディア、10歳に押し付けた。 まだ右も左も分からぬ、アウラスは側近の言うことに頷くことしかできない。 どんな悪事が裏に隠れていようと、彼には暴けぬ上にその善し悪しすらも判別できないのだ。
「大統領閣下のお許しを頂いた、ただちにティンバーに使者を」
青年が手下のものに声をかける。 手下も疑うことを知らない。 この使者にどんな意味があるのか、深く考えることをせずに手下は、短い返事を返すと走って使者の元へ向かった。
「…ラグナ…今に見ていろ…」
そう、つぶやいた言葉は一人の耳以外には届くことなく、小さくなって消えていった。


*     *     *


「スコール指揮官っ、報告申し上げます!」
キビキビとした声に、スコールは調子を確かめていたライオンハートから視線を外した。
「…聞こう」
ビシリッと姿勢を正した青年は深呼吸すると、声を張り上げる。 「ガルバディアよりティンバーに向けて使者が送られたとの情報が、今しがた入りました!詳細は不明っ、情報部隊からの伝言によると、大統領直々の命令で動いているとのことです!」
ぐっとスコールの眉間にしわが深く刻まれた。 それをみた青年は、少しびくっと身を竦ませたが、自らに立腹しているのではないと悟と、さらに言葉を紡ぐ。
「スコール指揮官、どうなさいますか?」
とん、と青年の方に誰かの手が置かれた。
「スコール、まずいんじゃないかしら…」
声は青年の後ろから発せられている。 スコールはその声の主の顔を見ると、少しだけ表情を和らげてため息をついた。
「まずいもなにも…どう見てもエスタに宣戦布告してるようにしか見えない…。キスティスどう思う?」
凝り固まった青年の緊張をほぐすように、肩に手をおいた声の主…キスティスは、スコールの言葉に深く頷く。
「私もそう思ったわ」
「…よし」
その一言になにか吹っ切れたのだろうか、スコールはガンブレードを手に立ち上がると、テントに足を向けた。
「…ごめんなさいね、ありがとう」
青年の肩から手を話したキスティスは、まゆを下げる。
「い…いえ!自分は大丈夫ですっ」
そう精一杯返すと青年は、ぺこりと頭を下げ足早に自分の担当の場所へと戻っていった。 キスティスがテントに入ると、スコールは電話で誰かと話をしていた。
「サイファーもそう思うか?…あぁ。キスティスも同じ意見だ。…は?飯?そんなの食べてる暇…わかった、わかったからちゃんと食う、これでいいだろ?」
とぎれとぎれの会話で少々話の流れがつかみにくい部分もあったが、キスティスは頭を回転させ、サイファーが電話口で言っているであろう言葉を、導き出すと、クスリと小さく笑った。 相変わらず、スコールには過保護なまでに心配するサイファーである。
もちろん、彼自身はスコールの実力は認めている。 しかし、彼の心配する種はそこではない。 スコール自身の体調管理の部分などである。 自分のこととなると、からっきしダメなスコールは体調こそ最近崩さなくなったが、サイファーが魔女の騎士として、ガーデンから離れているあいだはろくに眠っていなかったのか、旅先での不摂生がたたったのか、一時はキビキビと動いていたにもかかわらず、魔女との戦いが終わったあとは、体調を崩しに崩し、使い物にならなかったことがあったのである。
「ああ、また連絡する」
電話を切ったスコールは気配で感じ取っていたキスティスの来訪を迎えるべく、彼女の方に身体を向けた。
「サイファー?」
「ああ」
「なんて?」
短い単語のやり取りの後、気になっていた部分を問うてみる。
「飯をきちんと食え…だと、あと睡眠もキッチリとれと言われた」
その言葉を聞いてやっぱりか、と小さく笑を作る。 そんなキスティスをよそにスコールは更に続けた。
「サイファーに先ほどのことも話してみたが、どうやら同じ意見のようだ。このまま俺たちだけで行くのは少々危険だから、話してみたが…良かったと思うか?」
「私は良かったと思うわよ?少人数のSeeDだけじゃ、この問題は片付けられないところまで大きくなってきてるし、なにより、スコール。あなたの精神的なところを考えると、話してよかったと思うわ。サイファーは短気だけどここ最近、SeeDの資格を取ってからは少し変わったように思うし、バカじゃないわ」
キスティスの物言いに、少し固まっていたスコールの表情が和らいだ。 彼は自分で自分を休ませるとこをしない。 いつだって自分で自分を追い込んでいく。
やっぱりこういう状況下で、スコールを休ませてあげるのはサイファーの仕事なんだろうけど、いない今、私がその役割を果たして、この任務を成功に導いていきたい、と思うのはわがままなのだろうか。と少しだけシリアスな考えに至ったキスティスは、ネガティブない思いを振り払うかのように、ちいさく唇をかんだのだった。

キスティス…いるんですよふふふ