螺旋街道


knight and lie

とりあえず、世界を救って。 サイファーを手元に取り戻して、自分のそばに置いて、そして俺が得た生活とは、日々職務に追われる、なんとも滑稽なものだった。

「スコール、この依頼書。今日中にサインお願いね」
「ああ、わかった」
キスティが特別に書類の山から引き出した依頼書は、某富国からのSeeD要請依頼書であった。 内容を簡単に言うと、某富国のマフィアを抹殺せよ。という至ってシンプルなもの。
しかし、まずもって、このような依頼は問題がつきものであった。 まず、マフィアは相手の情報をいとも簡単に手に入れてしまう。 そのために静かに足をつかれないよう冷静に動ける人間が必要である。 ゼルやサイファーはこういった仕事には向かない。
なぜなら、うるさい上に冷静な判断力が、特にゼルに欠ける。 両者とも優秀でSランクSeeDであるが、暗殺というものには向かずどっちかというと暴れるモンスターを駆除したりする仕事がぴったりなのだ。 この時点で、二人のSeeDがこの任務の候補から外される。
残っているもので、高ランクのSeeDといえば、キスティか、セルフィ、アーヴァイン、そして俺。 しかしながら、サイファーとゼルを残してゆくと、指揮官室の仕事はたまりにたまり、ぐちゃぐちゃな惨状になろうことは目に見えている。 二人を監視するための人員もこちらに残さねばならないと考えると、高ランクのSeeDで派遣できるのはたったの3人になってしまうのだ。 その時点でもう問題が発生する。
スコールは頭を抱えた。 しかし、こう悶々と悩んでいても何も解決しないどころか、仕事は溜まっていく一方。 スコールは仕方なくため息を着くと、目の前で書類を裁くキスティスに密かに謝罪を入れ、書類に派遣するSeeDの名前を書き、サインした。

『アサシナリティに参加するSeeD、スコール・レオンハート指揮官及び、セルフィ・ティルミット、アーヴァイン・キニアス、以上三名は直ちに学園長室へ集合してください』
そんな放送がお昼時にガーデンに流れた。 食べるよりも仕事を優先して行っていた俺がその放送に席を立つ。 そして次の瞬間、バシリッとこ気味いい音が響いた。
「…っ」
鈍い痛みに顔をしかめて振り返れば、キスティスがほほ笑みを浮かべて俺の真後ろに立っている。 まずい、と直感が危険信号を発したが、逃げられない。
「あなた…私にあのサイファーを押し付ける気かしら?」
背後に鬼が見えそうなほど、黒い微笑みを浮かべるキスティス。
「いや…そういうわけじゃない…ただ…」
焦って、いろいろ言い訳を考えてみたが時すでに遅し。 押し付けられたと思い込んだ彼女に、おもいっきり頬を引っ張られた。
「あなたがいない間、サイファーをどうしろっていうのかしら?縄でしばりつける?それとも寮に閉じ込めておく?でも、あの子なら壊して勝手に出て行くのがオチなのでしょうけど」
「何してんだお前ら…」
引っ張られている頬が限界に近づき、キスティスの小言にも嫌気がさし始めた頃、指揮官室の扉があいて、サイファーが入ってきた。 俺たちを見て、首をかしげている。 しかし次の瞬間、俺の顔をみながらクツクツと笑い始めた。
どうやら、頬を引っ張られている姿が滑稽に写ったようだ。 内心むっとしつつも、これを好機とみて、そろりと放心しているキスティスからのがれ、笑い続けるサイファーを残して、学園長室へと逃げた。